AIの研究開発に取り組む「明電舎」のシゴトバ紹介
【本社所在地】東京都品川区
【支社・支店】大阪、名古屋、札幌、仙台、大宮(埼玉県)、千葉、横浜、金沢(石川県)、広島、高松(徳島県)、福岡
【事業所・工場・研究所】沼津(静岡県)、総合研究所(東京都品川区)、太田(群馬県)、名古屋
【従業員数】8474名(2017年3月31日現在)
【事業内容】社会システム事業、産業システム事業、エンジニアリング事業を展開。社会システム事業では、変電・配電、発電に関する各種電気機器の製造・販売およびソリューションサービスを提供。産業システム事業では自動車試験装置のほか、電気自動車やエレベーター向けにモーターやインバーターなどの電動力応用製品の製造・販売を展開。エンジニアリング事業では、納入した機器の長寿命化や省エネルギー対策の提案などを行っている。
明電舎は日本の電気技術の黎明期である1901年に三相誘導電動機(モーター)を開発して以来、モートル(モーター)の明電として世の中を支えてきた。モーターおよびその制御技術は、現在の明電舎のさまざまな事業分野の根源として展開されている。例えば、三菱自動車のプラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」に明電舎のモーターとインバーターが、国内外の有名高層ビルのエレベーター用モーターにも明電舎の製品が数多く使用されている。そのほか、国内新幹線すべての路線のどこかに明電舎の製品が納入されているなど、明電舎の技術は人々の生活に直結するインフラを支えている。
明電舎の会社概要・沿革
生活に欠かせない交通インフラの一つ、鉄道。近年では「電車」と呼ばれるように、今や多くの鉄道が電気を動力として動いています。電車を動かすための電気は発電所でつくられ、変電所で電車用に変圧されます。また、電車が走るための電力を安定的に供給する設備も必要です。このように、電車一つでもさまざまな装置が必要になります。明電舎はこのような鉄道や発電所だけでなく、浄水場、病院、工場、ビル、放送施設など、私たちの日常生活を支える社会インフラ、産業インフラに欠かせない電気機器を開発、提供しているのです。
明電舎の創業は120年前の1897年。創業当初は電気機器の修理、スイッチの製作を主としていました。その後、国内製電動機(モーター)の開発を始め、1905年に同社独自の設計法を考案。その翌年には、同方法を採用したモーターの生産を本格的に開始します(モートルの明電)。ここから同社のモノづくりの歴史が始まります。1970年代からは、パワーエレクトロニクスに注力。さらに1980年代後半からは、これまで培ったエレクトロニクスやメカトロニクスに加え、各分野の技術を統合して管理・監視・制御するまでをソリューションとして提供するシステムエンジニアリングの明電へと発展。そして現在は、豊かな経済社会構築に貢献するため、エネルギー安定供給を目指した高度技術の確立や環境保全技術の発展に積極的に取り組んでいます。
研究開発本部 基盤技術研究所 知能情報研究部のシゴトバ紹介
今回は明電舎 研究開発本部 基盤技術研究所 知能情報研究部のシゴトバを紹介します。
明電舎 研究開発本部 基盤技術研究所のシゴトバは、同社の主力生産拠点である沼津事業所(静岡県沼津市)の中にあります。沼津事業所の最寄り駅は、JR東海道本線沼津駅。そこから車で10分ほど走れば、事業所正門に着きます。同事業所ではスイッチギア、大型変圧器、電力変換装置、可変速装置など、さまざまな同社製品が生産されています。
東京駅から沼津駅までは、新幹線を使うと約1時間半。同社では新幹線通勤も認められており、そういう社員もちらほらいるそう。独身社員の場合は、事業所近くに独身寮があるため、寮から自転車で通勤している人が多いとのことでしたが、大多数の社員は車通勤だそうです。
研究開発本部 基盤技術研究所 知能情報研究部ではどんな仕事をしているの?
同部に所属している吉田健人さんが案内してくれました。
研究開発本部は、吉田さんが所属している基盤技術研究所と、製品技術研究所、知的財産部、開発統括部で構成されています。基盤技術研究所は主に基礎研究、製品技術研究所では製品開発、知的財産部では特許などの知的財産の管理、開発統括部はこれら3組織の取りまとめを担当しています。
「私が所属する知能情報研究部では人工知能(AI)に関する研究開発を行っています」(吉田さん)
知能情報研究部は2016年4月に新設された部署。現在、さまざまな分野にAIが活用されています。同社においても提供するシステムやサービスを高度化、インテリジェント化(機械や道具などにAIを組み込むことで、自動化や高機能化を図ること)するために、本格的にAI研究に乗り出しました。
「例えば水処理プラントの装置に設置されたセンサーから送られてくるデータを解析し、故障予兆を診断したりするAIや、機器の稼働率を最適にし、プラントの運転を効率化するようなAIを開発したりする、ということがあります。私たちが対象とするのは、あらゆる事業部の製品やサービス。これまでのやり方ではできなかったことを、AIで解決していこうというのが私たちの部署のミッションです」(吉田さん)
新設されたばかりなので、まだまだ組織は小さく、部員は10人強。平均年齢は30歳と、全社の平均年齢と比べて10歳以上も若く、若手社員の活躍が期待されています。
研究開発本部 基盤技術研究所 知能情報研究部 吉田健人さんのおシゴト紹介
吉田さんは現在入社3年目。入社後1年間は製品技術研究所に所属し、産業用コントローラーの開発に携わっていました。同部の新設と同時に現在の部署に異動。その背景には、学生時代に音声データを扱う研究をしていたことがあったからだと言います。
「現在、AI技術の中でも最もホットなのは、ディープラーニングという技術です。これは機械学習というデータ分析手法のアルゴリズムの1つで、それを事業部のニーズに合わせて設計するのが私たちの仕事です」(吉田さん)
ディープラーニングの設計といっても、ディープラーニングそのもののプログラムを開発するわけではありません。現在、海外の先進的なIT企業をはじめ、国内IT企業でも、ディープラーニングを実現するためのフレームワーク(プログラムのひな型)を無償(オープンソース)で提供しています。例えば、ある機械の故障を予測するようなAIを開発する場合、それができるように設計し、プログラムをカスタマイズしていきます。
AIの開発において、必要になるのがデータです。同社の場合は、製品のインテリジェント化を図るAIを開発しているため、対象となる装置に設置されたセンサーからデータを取得することも重要な業務の1つです。例えばモーターが故障すると、モーターの軸のぶれや振動が生じます。そこで、モーターの故障を予測・判定するようなAIを開発するために、実際にモーターを回転させてどのような動きをするか、データを取得するのです。
上の写真は、軸の振動や位置などを測定するため、センサーを設置しているところ。こうして大量に取得したデータを、AIプログラムに学習させていくのです。そして目的通りの成果が得られるか、AIプログラムを実際の装置に組み込み、試験を行い、評価します。目的通りの成果が得られなければ、また設計を見直したり、プログラムをチューニングしたりして、試験を繰り返していきます。
「AIは今、話題の最先端分野であり、当社では私たちがパイオニア的な存在です。そういうチャレンジングな分野を私たち若手が任されているんだというところに、大きなやりがいを感じています」(吉田さん)
今、実用化を目指して吉田さんが取り組んでいるのが、ディープラーニングの基礎技術であるニューラルネットワークのハードウェア化です。
「AIの研究開発については、事業部の製品開発担当者や企画担当者と話をして、進めています。また最先端な分野だけに、大学との共同研究も行っています」(吉田さん)
前編では【明電舎 研究開発本部 基盤技術研究所 知能情報研究部】のシゴトバを紹介しました。
後編では吉田さんに入社の決め手やシゴトバの魅力、これから就活を迎える学生さんへのアドバイスなど、お話しいただきます。
→次回へ続く
(後編 10月11日更新予定)
取材・文/中村仁美 撮影/兼岩直紀