ブレーキディスクを“一気生産”する「キリウ」のシゴトバ紹介
【本社所在地】栃木県足利市
【工場】足利工場(栃木県)、赤堀分工場(群馬県)
【国内関連企業】キリウ山形(山形県)、キリウ大分(大分県)、キリウテクノ(群馬県)
【国外関連企業】キリウUSA、キリウメヒカーナ、キリウインドネシア、キリウタイランドなど9拠点
【従業員数】503名、連結5576名(2017年3月現在)
【事業内容】住友商事グループの自動車専用ブレーキ部品専門メーカー。国内3カ所、海外7カ国9カ所に生産拠点を設け、設計・開発から製造までの一気生産システム体制を構築。ブレーキシステムを国内外の自動車メーカーに提供している。
自動車の重要部品であるブレーキディスクとブレーキドラムの専門メーカーとして、国内8大メーカーをはじめ、海外メーカー(ゼネラルモーターズ、フォード、ルノー、フォルクスワーゲン)に提供。同社の強みは、創業から110年以上の長い歴史の中で培われた品質の高さ。日産自動車では毎年、品質の高いサプライヤーを表彰する制度を設けており、キリウは海外拠点を含め数多くの優秀賞を受賞。2016年度はシャシー部門で受賞。同アワードで受賞されるサプライヤーは世界で6社しかなく、同社グループは品質面が高く評価され、選出された。
キリウの会社概要・沿革
自動車の基本性能である「曲がる」「止まる」。この性能を支えるのが、ブレーキシステムです。ブレーキシステムは、ブレーキディスクとブレーキドラムの大きく2つに分けられ、この双方のブレーキシステムを設計・開発から製造まで、一気生産システムを構築し、国内外の自動車メーカーに提供しているのがキリウです。
一気生産システムとは、モノの流れを切り口に、企画・設計から生産、出荷、金型・設備の内製を含め、工程内の無駄を徹底排除した効率的な一貫生産のシステムを指します。
キリウの創業は1906年。織物準備機械(織物を作るための一連の機械)のメーカーとしてスタートしました。1913年には鋳造製品の製造を開始。1937年には工作機械の製造販売も手掛けるようになります。自動車用部品の製造販売を開始したのは、1960年。それ以降、同社の主力製品は自動車のブレーキ関連部品となります。
現在、同社は国内8大自動車メーカーに製品を提供。特に、日産自動車とスバルに関しては、ほとんどの車種で採用されているそうです。また、海外メーカーではゼネラルモーターズやフォード、ルノー、フォルクスワーゲンにも提供しています。
このように同社が多くのグローバルメーカーから信頼されているのは、前述したように、一気生産という考え方の下、世界中で同じ性能・品質の製品を提供できるという体制を確立し、お客さまにより良い製品を提供するために、日々切磋琢磨(せっさたくま)しているからなのです。
グローバル生産本部 鋳造技術部のシゴトバ紹介
今回はキリウ グローバル生産本部 鋳造技術部のシゴトバを紹介します。
グローバル生産本部の建屋は、キリウ本社と同様に足利工場(栃木県足利市)の敷地内にあります。足利工場の面積は9万2013平方メートル。これは東京ドーム約2個分の広さです。
足利工場の最寄り駅はJR両毛線の小俣駅。駅から車で5分、徒歩では16~17分ほどに位置します。そのため、従業員の多くは自動車で通勤をしています。足利工場のすぐ隣には緑豊かな小俣公園、また裏手には渡良瀬川の緑地帯が広がっており、非常にのどかな雰囲気の中にシゴトバはあります。
グローバル生産本部 鋳造技術部のシゴトバではどんな仕事をしているの?
同部署に所属する村岡広基さんがシゴトバを案内してくれました。
グローバル生産本部のミッションは、一気生産という考え方の下、国内3カ所、海外9カ所のすべての拠点で同じ性能・品質のブレーキディスクおよびブレーキドラムを安定的に供給することです。
ブレーキディスクは、車輪と一体となって回転する円盤状のディスク(ディスクローター)を2枚のブレーキパッドで挟むことで、車を減速させたり停止をさせたりするブレーキシステムのこと。またブレーキドラムは、車輪と共に回転するドラムと呼ばれるケースの内側にブレーキシューと呼ばれる部品を取り付け、そのシューを油圧ピストンの力でドラム内径に押しつけることで制動させるブレーキシステムです。
ブレーキディスクもブレーキドラムも乗用車に採用されているシステムですが、次のような違いがあります。
ブレーキディスクは放熱性に優れ、安定した制動力を得られることから、現在の乗用車が採用する主流のブレーキシステムです。一方のブレーキドラムは、ブレーキディスクよりも大きな制動力は得られますが、放熱性に劣るという特徴があります。近年は、主に後輪に採用されています。
一気生産は、次のような工程をたどります。
1. 自動車メーカーなどからオーダーを受け、そのニーズに合った製品を企画・設計
2. メーカーから承認されて正式な注文を受けると、次に鋳造のための型や設備の設計を開始
3. 出来上がった型(鋳型)に約1500度の高温で溶かした鉄を流し込み固める
4. 鋳造品質が保たれているか検査を行い、それをパスすると、精密部品に仕上げるために機械加工工程へと進む
5. 工作機械や切削機械で穴を開けたり削ったりという加工を施し、塗装して仕上げる
6. 完成検査を行い、メーカーに納品
同本部ではすべての工程に対応できるように、鋳造技術部のほか、ブレーキ素材の加工を担当する機械技術部、生産管理部、一気生産推進室で構成されています。
「私が所属する鋳造技術部は、鋳造という製造方法で作られるブレーキディスクおよびドラムの工程と工順の設計を担っています」(村岡さん)
グローバル生産本部 鋳造技術部 村岡広基さんのおシゴト紹介
鋳造技術部は、以下の5グループに分かれています。
・新規に受注した部品の製造の仕組みを担当する立ち上げグループ
・既存製品の不良対策やコスト削減などを検討するQCD改善グループ
・製品の強度改善など材質を検討する設計グループ
・設計しモノが求める品質を有しているかシミュレーションなどを行う解析グループ
・設備の立ち上げや改善を担当する設備グループ
村岡さんは2番目に挙げた、QCD改善グループに所属しています。
「私が主に担当しているのはブレーキディスクのQCD改善です」(村岡さん)
ブレーキディスクも大きく2種類に分かれ、ベンチレーテッドタイプとソリッドタイプがあります。この2つの大きな違いは、形状にあります。
ベンチレーテッドタイプは、「通風、風通し」という意味の「ベンチレーション」から名付けられている通り、通気孔があるため、放熱性に優れています。高い放熱性によりブレーキが利きやすい、軽量化が図れるという観点から、主に乗用車の前輪に採用されています。
一方のソリッドタイプは、通気孔のないタイプで、主に後輪に用いられます。この背景にはコストが抑えられることなどが挙げられます。
日々の仕事は、前日の不良品の確認をすることから始まります。不良品は鋳造工程と機械工程のいずれの工程でも発生しますが、特に不良品が発生しやすいのが鋳造工程だそうです。
「なぜなら鋳物は、作ってみなければわからないことが多いからです。鋳物は成分を調整した鉄を型に流し込むのですが、その成分が本当に一様に混ざっているかは出来上がって検査をしてみなければわかりません。いかに不良を出さないようにするか、現場の作業担当者や責任者にヒアリングなどを行います。それらの話を基に、対策を立案し、具体的なスケジュールを計画します。不良原因を追及するために、測定機器などを自分たちで作ることもあります」(村岡さん)
ブレーキシステムにおいてメーカーからの要望が高いのが、ブレーキの鳴き(ブレーキを踏んだときに鳴る、キキーという音)の改善と軽量化です。ブレーキディスクの場合、ディスクを2枚のブレーキパッドで挟み、その摩擦力で制動するという仕組みとなっています。摩擦力によって発生する振動現象が音の原因であり、その震動が大きくなればなるほど、鳴きとなるというわけです。またもう一つの軽量化も、燃費を良くするためには欠かせない改良点です。
「強度や品質を維持しながらいかに、軽量化でき、鳴かないブレーキを作るか。そのために材質的な改善を行ったり、生産条件を見直したりもしています」(村岡さん)
グローバルの生産拠点の支援も行います。
「メールや電話で問い合わせが来るので、原因を追及してどうすれば改善できるかアドバイスを行います。鋳造技術部のメンバーは、グローバル拠点を支援するために、現地に行くことも多々あります。私もつい先日まで、メキシコの工場に出向き、支援をしていました。出張期間は40日。現地ではスペイン語も必要となるため、週1回、会社で開催されているスペイン語講座を受講しています。QCD改善という仕事の面白いところは、会社の収益に貢献できること。自分が不良対策した車が街中で走っているのを見ることができるという醍醐味(だいごみ)もあります」(村岡さん)
前編では【キリウ グローバル生産本部 鋳造技術部】のシゴトバを紹介しました。
後編では村岡さんに入社の決め手やシゴトバの魅力、これから就活を迎える学生さんへのアドバイスなど、お話しいただきます。
→次回へ続く
(後編 1月10日更新予定)
取材・文/中村仁美 撮影/平山 諭