粉粒体運搬車、荷役省力装置を開発設計する仕事とは?
極東開発工業 名古屋工場は愛知県の北西部に位置する小牧市にあります。名古屋市からは15キロメートルほど離れているのどかな街。高度成長期以後、名神高速道路、東名高速道路、中央自動車道の3大高速道路が交わる交通の要衝として、発展してきました。
最寄り駅は名古屋鉄道(名鉄)小牧線小牧原駅。そこから徒歩15分で名古屋工場の正門に着きますが、ほとんどの社員が車通勤をしているそうです。
極東開発工業の特装車の国内生産拠点は名古屋工場を含めて4カ所あり、各工場でつくっている製品が異なるそう。名古屋工場では、粉粒体運搬車や散水車、テールゲートリフター(荷役省力装置)などを生産しています。
名古屋工場設計課のシゴトバを案内してくれたのは、名古屋工場 設計課 担当課長の平野秀仁さんと名古屋工場 パワーゲートセンター 開発設計担当の清藤英樹さんです。平野さんの担当は粉粒体運搬車「ジェットパック(R)」。一方、清藤さんは所属部署の名称からもわかる通り、荷役省力装置「パワーゲート(R)」を担当しています。
「なぜ生産工場に各製品の開発、改良を行う設計課が設置されているかというと、特装車は受注生産だからです。基本仕様はありますが、基本仕様のままということは少なく、ほとんどがユーザーであるお客さまからの要望に合わせて、一台一台設計するのです。設計課は大きく2つの仕事に分かれており、1つは先述したようにお客さまの要望にあわせて設計をしたり、現行品の改善をしたりする仕事。もう1つは開発設計で、担当製品の新機能の開発や改良を行います。そしてまったくの新製品の開発は、兵庫県三木市にある開発部が担当しています」(平野さん)
写真は平野さんが担当しているジェットパック(R)です。
「ジェットパック(R)はセメントや石灰、炭酸カルシウムなどの粉粒体を運ぶためのトラックです。積み込みはタンク上部にあるマンホールから行います。タンク内に入った粉粒体は車に装備されたコンプレッサのエアで流動化状態となり、内部の圧力も上昇します。排出はその圧力を利用。バルブを開くと粉粒体がエアとともに外へ圧送されるという仕組みになっているんです。ジェットパック(R)の一番の開発課題は軽量化。環境に配慮するためにも軽量化への取り組みは欠かせません」(平野さん)
写真は清藤さんが担当しているパワーゲート(R)(床下格納式)です。荷物を載せるプラットフォーム部分が2枚や3枚に畳めることで、荷台の下部分にすっきり格納できるようになっています。
「重い荷物の積み下ろし作業を省力化するための装置です。パワーゲート(R)は街中を走る車に取り付けられることが多いので、静音性を高める工夫や、塗装品質を上げることなどが求められています。最新のパワーゲート(R)の場合、プラットフォームを昇降する際の操作音は約40デシベル。これは図書館、深夜や静かな住宅街の音の大きさです。深夜でも積み下ろしができるよう、ほとんど音がしないレベルを達成しています」(清藤さん)
設計課の執務エリアです。パーテーションはほとんどなく、すっきり、広々とした雰囲気。
「開発担当者の近くには製造や工務(部品や資材を調達する部署)担当者の席があります。何か困ったことがあれば、振り返るだけですぐ相談できるんです。仕事がしやすいレイアウトになっています」(清藤さん)
CADを使ってパワーゲート(R)の設計をしているところです。
「私たち極東開発工業の開発設計の仕事は、非常に幅広いのが特徴です。どのような仕事をしているか紹介しましょう。パワーゲート(R)の場合、お客さまはユーザーではなくバンボデーメーカー(バン型のトラックを製造している会社)となります。私たちの仕事はまず、どうすればお客さまの要求に応えられる新製品ができるか、考えるところから始まります。アイデアがまとまったら、CADで設計図面を作成し、試作します。試作ができてくれば開発担当者自身が組み立て現場に出向いて組み立て、強度など求められている仕様が満たされているか、また操作性に問題がないかなどを評価します。評価して問題がなければ量産のための図面を描く。ここまで、開発の一連の流れを担当します」(清藤さん)
「そのような一連の流れに加え、部品の品質管理を行う際のチェック項目リストや、営業担当者が製品の特徴をきちんと捉えられるような販売支援のための資料の作成も開発担当者が行うんですよ」(平野さん)
「製造現場に出向くことも多いですよ」と平野さん。特に組み立て現場には足をよく運ぶそうです。
「新しい製品の量産化が始まると、必ず組み立て現場に出向いて、作業の指導を行ったりします」(清藤さん)
写真はシャシにタンクなどジェットパック(R)の架装部品の取り付けを行っている作業担当者と平野さんの打ち合わせシーン。
「試作のときに問題がなかったことでも、量産では組み立てやすさに問題が生じたりすることもあるからです。現場の担当者と話をすることで、そういった課題が見えてくる。その課題は次回の改良ネタになったりするので、現場担当者とのコミュニケーションは重要なんです」(平野さん)
こちらはパワーゲート(R)の組み立て現場です。パワーゲート(R)は部品の組み立てが終わると、お客さまが要求する仕様性能が満たされているか、重量寸法の測定や実作動による性能検査を実施し、バンボデーメーカーに納品されます。バンボデーメーカーでボデーに取り付けられ、ユーザーの元に届きます。
写真はジェットパック(R)の品質検査を行っているところです。
「ジェットパック(R)はこの工場でシャシに架装して、お客さま(ユーザー)に納品します。したがって本当にお客さまが求めている性能が出るか、当社で厳しい品質チェックを専門の検査員が行います。お客さまの使用環境と同様に、工場内にはセメントを備蓄しておくサイロも用意しており、そこに仕様どおりに圧送できるか、実際に試したりもするんです」(平野さん)
担当製品の新機能開発や改良は2人でチームを組んで行われているそうです。
「メンバーとの打ち合わせはもちろん、製造や工務、品質管理の人たちとの打ち合わせもよくあります。モノづくりにコミュニケーションは欠かせません」(清藤さん)
ハタラクヒト 社是の和協(多くの人の力を合わせて仲よくすること)の文化が行き届いたシゴトバ
引き続き平野さん(写真左)と清藤さんに「極東開発工業 名古屋工場 設計課」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてお話をうかがいました。
清藤さんは立命館大学理工学部ロボティクス学科を卒業し、2005年に極東開発工業に入社しました。
「車に携わる仕事がしたかったんです。中でもメカ的な要素の強い車がいいなと思っていました。というのも学生時代はロボコンに出場するほどのメカ好き。だから特装車メーカーである極東開発工業を選びました。実家が整備工場を経営していたので、極東開発工業のことはよく知ってたんです」(清藤さん)
一方の平野さんは立命館大学理工学部機械工学科を卒業し、1993年に極東開発工業に入社。
「生産財(モノを作るための製品)づくりをしたかったんです。私も車が好きで、その中でも特装車をつくりたいと思い、極東開発工業を選びました。大学の先生の友達に当社で働いていた人がおり、その人から直接、業務内容も聞くことができたんです。広く社会に貢献できる企業なんだと思いました」(平野さん)
清藤さん、平野さんのように設計課の人たちの多くは機械系もしくは電気電子系出身者とのこと。
「公道を走る特装車の設計・開発には専門知識が必要になるので、機械系・電気電子系出身者の方を採用しています」(総務人事部 人事課の玉城泉さん)だそうです。
特装車を開発する面白さはなんといっても「街で自分がつくった車が働いている様子が見られること」(清藤さん)だそうです。
「開発担当者は量産までのすべての工程に携わります。まさに自分が一から考えてつくった車が走るんです。しかもそれらは作業をするための車。その車が作業することで社会にも貢献できるわけです。そういった姿を見られることがこの仕事の醍醐味です」(平野さん)
もちろん新しいモノを生み出すことには、苦労はつきものです。
「パワーゲート(R)CGシリーズに反射板を取り付けるという改良では、非常に苦労しました。CGシリーズはプラットフォームを2枚や3枚に折り畳んで床下に格納します。もともと省スペースにできているので、反射板をつけるほど余裕がなかったんです。しかしそんな中でどうやってお客さまの要望を満たすことができるか、非常に苦労して考えた結果、うまく取り付けることができました。お客さまからも満足の声を頂き、本当にうれしかったですね」(清藤さん)
「改良というと、ゼロから開発するより簡単そうなイメージがあるかもしれませんが、先のパワーゲート(R)の例などは一から開発した方が楽だったかもしれません。いかに現状のものを変えずに改良するかは、開発担当者のアイデアと技量が問われるところ。非常に難しいことなんです」(平野さん)
極東開発工業 名古屋工場 設計課の風土や文化について聞いてみました。
「何か困ったことがあるとすぐ相談できますし、情報の風通しはすごく良いですね。人数もそう多くないので、小回りもきき、いい会社です」(清藤さん)
「自由な発想で物事を進めていける自由な風土です。もちろんその自由な発想はバックデータ(裏づけとなるデータ)に基づき論理的に説明できることが大前提ですが。年齢や経験に関係なく、発言も聞いてもらえます。当社の社是に和協(多くの人が力を合わせて仲よくすること)という言葉がありますが、まさにこの言葉通りの文化が浸透している。働きやすいシゴトバです」(平野さん)
ランチは1食157円。3つの定食メニューから選択
食堂の定食メニューの一例です。同社の食堂では毎日、3種類の定食が用意されており、157円で食べられるそうです。ちなみに写真はB定食で、メイン料理のとんかつ(コールスローサラダ、アスパラベーコン添え)にライス、味噌汁、漬物がついています。
喫煙室です。極東開発工業のオフィスは完全禁煙になっており、喫煙者は写真のような喫煙室でタバコを吸うことになっています。飲み物などの自動販売機はここにも用意されており、休憩時間はもちろんですが、それ以外も社員の憩いの場となっているそうです。
極東開発工業にまつわる3つの数字
ダンプトラックやごみ収集車、タンクローリーなど、特装車の総合メーカーとして多種多様な特装車を開発、製造し、国内外に販売している極東開発工業。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!
1. 7割
2. 1トン
3. 71.1パーセント
前回(Vol.95 株式会社バイオテックジャパン )の解答はこちら
取材・文/中村仁美 撮影/岡田和男