お客さまに寄り添ったヘア化粧品を開発する仕事とは
ミルボン 中央研究所は、大阪市都島区のミルボン本社の敷地内に併設されています。最寄り駅は大阪市営地下鉄谷町線「都島(みやこじま)駅」。そこから5分ほど歩くと、ミルボン本社の入り口に着きます。現在の場所に本社および中央研究所を構えたのは2002年のこと。13年末には中央研究所に新棟を増設し、さらなる研究開発拠点の充実を図りました。
本社および中央研究所は駅に近く、周辺にはマンションなどの住宅地が多く、落ち着いた雰囲気。社員は電車や自転車などを使って通勤しているそうです。
中央研究所のシゴトバを紹介してくれたのは、中央研究所 開発研究室 グローバル製品開発チーム チーフリサーチャーの熊﨑慎也さん。中央研究所は熊﨑さんが所属する開発研究室のほか、商品評価室、パッケージデザイン開発室、薬事法などの法律関係を担当する薬事室、知的財産室などで構成されています。写真は処方開発を行う研究室。中央研究所には旧棟と新棟に1室ずつ写真のような研究室が用意されています。会社にいるときは、一日の大半をこの部屋で過ごすことも多いそうです。
「私が所属している開発研究室では製品の開発や基礎研究を行っています。当社の製品開発は、独特です。それは独自の『TAC(Target Authority Customer)製品開発システム』を採用していること。トレンドの仕掛け人だったり、最高の技術で多くのお客さまから支持を集めたりしているその道のトップデザイナーと共同で取り組んで行います」(熊﨑さん)
基礎研究に携わっているチームは、毛髪および頭皮の特性や成分素材について研究などを行っているそう。また熊﨑さんが所属しているグローバル製品開発チームは、グローバル向けに製品開発に取り組む部署で、まだ配属されたばかり。
「これから飛び込んでいく新たな地域・文化の中でどんな新しい発見や課題・要望が待ち受けているのか、考えるだけでワクワクします」(熊﨑さん)
ミルボンが開発している製品の一例です。写真は「PLARMIA(プラーミア)」というヘアケアシリーズ。13年2月に発売されました。
「このシリーズはエイジングによる違和感に気づいた大人女性に向けたコンセプトとなっています。製品には年代や髪質、お悩みなど、いろいろな切り口がありますが、見てわかる新しさも必要です。例えばプラーミア クリアスパフォームというシャンプーは、炭酸泡で頭皮をクレンジングするというもの。このようにお客さまの感性に訴えかける剤形(クリームやスプレーなどの形状のこと)の新しさも開発の大事な要素なんです」(熊﨑さん)
写真は新しいトリートメントの処方開発をしているところです。このときは感触をよくする成分の探索を行っていました。
「私たちの仕事は全国にあるサロンの中から、その分野で最高峰の技術や考え方を持ったTACを見つけ出すところから始まります。そしてTACが持つ技術やノウハウを公開していただきます。その中からTAC自身も気づいていないような成功技術を発掘・解明し、どの美容師さんが使っても同じ効果が出せるよう標準化するのです。だからこそ単なるモノではなく、美容技術ソフトを盛り込んだ製品としてでき上がるのです」(熊﨑さん)
TACの成功技術を実現する処方を設計するのは、一筋縄にはいかないそう。
「基準になる処方を基に、何通りもの配合する原料の種類や配合量、そのバランスを変えた試作を行います。実験で作るサンプルのパターンは1日数十個に及ぶときもあります。そしてこれを何度も何度も繰り返し行いできあがったサンプルの中で『これだっ!』と思われるものをTACの先生のところに持って行き、評価してもらうんです。というのも私たち素人の感覚とプロであるTACの先生の感覚は違うことがあるからです。このようにTACの先生のなかなか数値化できない感性を科学と融合させていくことが、私たち研究員の役割なんです」(熊﨑さん)
1つの開発テーマに3~4人で取り組むことが多いそうです。
「個人での仕事もありますが、メンバーで相談したり打ち合わせしたりして進めることも多いですね。ちょっとした相談だと、このように研究室で行います。また困ったことがあると、テーマが異なるメンバーも親身になってサポートしてくれ、くじけそうになったとき、何度も助けられてきました」(熊﨑さん)
処方を開発していく過程では、2階にある商品評価室で、モニターの方にテストさせて頂きます。写真を見ればわかる通り、一般の美容サロンと同じような造りとなっています。
「当社には美容師免許を持っている社員がいます。その社員に実際に使ってもらい、自分の処方と照らし合わせて狙い通りの質感になっているか、評価してもらうんです。もちろん、モニターの方にも感想を聞いたり、自分で使ったりもします。一切妥協を許さないこのような徹底した厳しい評価を繰り返して、最終的に頂点にたった一処方のみが最終製品になるんです」(熊﨑さん)
試作品の評価は、実際のサロンにも協力してもらいます。
「1つの製品を創り上げるのに少なくとも50ほどのサロンを回ります。ミルボンの研究員は研究室にずっとこもりきりということはありません。TACの先生に加え、全国のサロンにも足を運び、お客さまの生の声を聞くことを大事にしています。出張は多いですよ」(熊﨑さん)
「デスクワークをする場所は事務室に限られていません。基本的にはどこで仕事しても大丈夫なんです。評価データの整理や処方の検討、プレゼンテーション資料の作成、試作品を評価してくれるサロンさんへのアンケートの作成など、実はデスクワークも意外に多いんです」(熊﨑さん)
この日は、図書室のデスクで書類作成をしていました。
ハタラクヒト 製品化するまでのアプローチをすべて任されるからやりがいが大きい
引き続き熊﨑さんに「ミルボン 中央研究所」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについて話をうかがいました。
熊﨑さんは三重大学大学院工学研究科修了後、07年4月にミルボンに入社しました。
「もともと、スタイリング剤を使ったり、美容室でカラーをしてもらったりと、ヘア化粧品に興味がありました。なので化粧品業界を中心に就職活動を展開。会社説明会に参加したときに聞いた、製品を通じて女性を外面だけでなく内面(心)まできれいにしていこうという“『髪』美しく、人うつくしい……”というコーポレートスローガンにひかれ、本気でそこに取り組んでいる会社だと感じました」
入社後は中央研究所に配属され、現在の部署に異動するまでの7年間、ヘアケア製品の開発とスタイリング剤の開発に従事してきたそうです。
「ミルボンで製品開発の仕事に携わる面白さは、若手のうちから製品化するまでのアプローチを任されること。どんな処方でどんな剤形にするか、研究員に委ねられるんです。思うようにいかず四六時中処方のことで頭を悩ませることも時にはありますが、無事に製品として発売され、サロンの方に『こんなの欲しかった。ありがとう』という声を頂いた瞬間に、それまでの苦労が吹き飛びます。そして残るのは大きな達成感。自分たちが開発した製品で、お客さまのコンプレックスや悩みを解消することにも役立つことができる。そこもこの仕事のやりがいですね」
どの製品においても開発には苦労がつきものですが、最も熊﨑さんが苦労したというのが、「ディーセス デイサマーミスト」という髪のUV(紫外線)ケア製品の開発。
「UVは肌にはもちろん、髪にも悪い影響を及ぼします。髪のUVケアの習慣がまだまだ根づいていない中でどうすれば女性に使い続けたいと思ってもらえるのか。TACに何度もヒアリングする中で『心地いい使用感(手触り・香り)』という要素が見えてきました。しかしUVカット成分を大量に配合するとどうしても手触りが悪くなってしまうんです。高いUVカット効果との両立を目指しひたすら検討を重ねました。製品開発にかかった時間は約1年。TACの喜んでくれた笑顔を見たときは、本当にうれしかったですね」
熊﨑さんは生物化学の出身ですが、周囲には理工学部や薬学部など、さまざまな専攻出身の人が働いているそうです。
「特にこの知識がなければならないということはありません。いろいろな専門知識を持った人が集まり各々が強みを発揮することが、研究所全体の強みになっているんだと思います。大切なのは、困難に直面してもそれを乗り越えていこうとする前向きな気持ちと粘り強さ。『なぜできないのか』ではなく『どうやったらできるのか』を常に考えることで活路が見えてきます」
最後にミルボンという会社の風土、文化についてたずねました。
「会議でも、役職や立場とかに関係なく、新人でもガンガン意見を主張していますね。若手のうちから責任ある仕事を任されるので、みんな自発的に動いています。やらされている感はまったくありません。みんなイキイキと働いている、そんな明るく元気なシゴトバです」
社員が集中したり、くつろいだりできる自由な空間
図書室です。ここには毛髪関連の書籍のほか、美容専門誌から最新のファッション誌まで、幅広く取りそろえられていました。事務作業ができるようなデスクに加え、写真左奥には「シンキングルーム」という、カギのかかる個室がありました。
「処方など、一人になってじっくり考えたいときに使っています」(熊﨑さん)
図書室の横には、ウッドデッキが敷かれた中庭のような開放空間が広がっていました。天気の良い昼休みなど、ここでのんびりと気分転換を図ったりするそうです。
ミルボンにまつわる3つの数字
1960年に設立されて以来、ヘア化粧品の専門メーカーとして国内の業界をけん引しているミルボン。今後はグローバル市場への展開にも注力していくそうです。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!
1. 5000
2. 約23万軒
3. 660分の100
取材・文/中村仁美 撮影/福永浩二