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Channel: 理系のシゴトバ –就職ジャーナル
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日本液炭株式会社

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今回の訪問先 【日本液炭 技術開発本部 開発部】
身近な素材の一つである二酸化炭素。一般的に二酸化炭素は気体状のモノを炭酸ガス、液体状のモノを液化炭酸ガス、固体状のモノをドライアイスと呼びます。例えば炭酸ガスであれば、溶接用のシールドガスをはじめ、コーラやビールなどの炭酸飲料、アルカリ廃水の中和処理などに用いられています。またドライアイスは食品の保存や冷凍食品の輸送などに欠かせない素材として広く認知されています。そんな炭酸ガスの可能性を広げるべく、1923年の創業以来、炭酸ガスやドライアイスの安定供給、および技術開発に取り組んでいるのが日本液炭です。日本液炭では創業以来蓄積してきた技術力・ノウハウを駆使して、炭酸ガスの新たな価値創造にも注力しています。殺虫成分や滅菌成分などほかの有効成分を溶解、あるいは混合した炭酸ガス製剤の開発はその一例です。またそれだけでなく液化炭酸ガスやドライアイスなどをお客さまが用途に合わせて利用するための装置開発、さらにはドライアイスや蓄冷剤を活用した冷熱・品温管理技術の開発などにも取り組んでいます。今回はそんな炭酸ガスの可能性を追求し、新たな価値創造にチャレンジしている日本液炭 技術開発本部 開発部のシゴトバを訪れました。

 

炭酸ガスやドライアイスの新たな用途を創造する技術開発

日本液炭で新しい用途向けの商材開発および既存商材の改善・改良に取り組む技術開発本部 開発部のシゴトバは、埼玉県久喜市の北関東事業所の敷地内にあります。この事業所には関東総合ガスセンターを中心に北関東支店と開発部があります。ガスセンターとは、記事冒頭のタイトルバックの写真のようなタンクに貯蔵された液化炭酸ガスをはじめとする産業ガスを、お客さまが安全に、かつ安心して使用できるよう、ボンベなどに充填する設備を持つ工場のことです。同様にドライアイス製品をお客さまのニーズに合わせて加工、供給している工場はドライアイスセンターと呼ばれ、関東では千葉県船橋市、神奈川県川崎市などに設置されています。中でも船橋ドライアイスセンターではドライアイス関連の開発を行うため、開発部のシゴトバが設けられているそうです。
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写真は日本液炭の主力製品、液化炭酸ガスです。後列中央が一般的な大きさのボンベで、ガスの充填量は30キログラムです。ボンベのバルブを開閉し、気化器や圧力調整器を使って、お客さまの用途に合った圧力や流量の炭酸ガスを供給します。お客さまのニーズに応じて容量がさまざまなサイズのボンベが用意されています。
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技術開発本部 開発部のシゴトバを案内してくれたのは、技術開発本部 開発部長の細野久朗(ひさあき)さんと技術開発本部 開発部 冷熱・品温開発課の小川豪(ごう)さん。
「開発部にはガス開発・分析課、機器開発課、冷熱・品温開発課という3つの課があります」(細野さん)
炭酸ガスにほかの有効成分を溶解あるいは混合して付加価値のある商品の開発を行ったり、同社が製造している各種ガスの品質管理にかかわる分析をしたり、またその方法を研究したりしているのがガス開発・分析課です。
写真は炭酸ガスの品質管理を行うための分析室。最終製品である炭酸ガスの純度を分析しているところです。
「最終製品の中からサンプルを抜き出し、不純物がどれだけ入っているか、ガスクロマトグラフ(ガスクロ※)を使って分析します。ガスセンターでも日常的な品質管理は行っていますが、開発部でも定期的にガスセンターからサンプルを取り寄せ、ダブルチェックを行うことで高い品質の担保に努めているんです」(小川さん)
※試料に含まれている物質およびその量を測定するための機器。

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炭酸ガスの用途は広がっており、お客さまのニーズもさまざまです。例えば炭酸ガス製剤の一つ、殺虫剤の開発においては、ちゃんと目的の量が空間中に散布されているか、実際に試験をして落ちてきた薬剤を濾紙(ろし)に付着させて回収し、ガスクロで分析することを行うそうです。写真は機器分析にかけるための試薬の調整をしているところです。
「炭酸ガスの面白さは気体、ドライアイスだけではなく、『超臨界』という液体でも気体でもない流体の状態を素材として容易に作り出せるところです。超臨界炭酸ガスの性質は有機溶剤に近いため、医薬品の精製や半導体の洗浄などに用いられる場面も増えています。特に今後、活用の伸びが期待されるのが半導体の洗浄です。現在、半導体の洗浄は純度の高い水で行っていますが、どれだけ水の純度を高めても表面張力があるため小さな隙間の汚れを取ることができないんです。しかし超臨界炭酸ガスであれば表面張力がほとんどないので、小さな隙間にも入り込める。より洗浄力を高めることができるわけです。次代の洗浄方法は超臨界炭酸だと業界で言われているほど。このように炭酸ガスはさまざまな可能性を秘めた素材なんです」(小川さん)

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開発部 機器開発課では液化炭酸ガスやドライアイスなど各種ガスの利用機器や応用技術の開発が行われています。写真は「ドライアイスブラスト」という、ドライアイスの粒を圧縮空気で噴射して機械や金型の洗浄を行う装置の設計図を3次元CAD(設計図作成ソフト)で描いているところです。
「ドライアイスの粒を噴射する装置といっても、例えば使用するドライアイスの大きさは米粒大のものから数十ミクロンのドライアイス粒子まであり、洗浄対象物と目的に合わせて装置と噴射条件(ドライアイスの大きさや噴射圧力など)を選定しなければなりません。また装置そのものだけではなく、制御ロボットと組み合わせたシステムとして設計することもあります。そのほかにもドライアイスや炭酸ガスを利用するためのさまざまな機器開発も行っています」(小川さん)

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「私が所属する冷熱・品温開発課はドライアイスや蓄冷剤を用いた品温管理技術の開発を行っています。例えば私が入社以来取り組んでいる定温輸送システムの開発も、その一例です」(小川さん)
写真は小川さんが開発している定温輸送システム「セルコンテナーシステム」です。
「名前からもわかるとおり、用途は細胞や臓器の輸送です。お客さまから『電気を使わずに摂氏4度±1度で一定時間保てる容器が欲しい』という声を頂いたことから、開発に取り組むことになりました。摂氏4度は細胞や臓器を輸送するには最適な温度と言われています。セルコンテナーシステムはその温度を10~20時間保つ仕組みです。そのため細胞や臓器を保管する容器(写真中央上)と蓄冷剤および外側の真空断熱容器(写真中央下)、さらにそれら全体を覆うパッケージ(写真左の四角の箱)という三位一体となった総合技術力が必要となります。その総合技術力を駆使して、システムとしてどう仕上げるか、最終的なモノにしていくのが私の役割です。中でも素材の選定から携わったのが、蓄冷剤です。真空断熱保管容器の開発については、同じ大陽日酸グループで、ステンレス魔法瓶で有名なサーモスという会社が担当しました」(小川さん)
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セルコンテナーシステムを上から見たところ。蓄冷剤が細胞や臓器を保管する容器と真空断熱容器の間に並べられていることがわかります。蓄冷剤は保管容器の周囲だけではなく、保管容器の下部および上部に並べることで、4度という温度を長時間保つことができるようになるそうです。
「蓄冷剤の選定も大変でしたが、それよりも難しかったのが蓄冷剤をどのような形にし、どのように並べるかでした。目的の要件を達成するために、何度も試行錯誤を繰り返しました。まだ開発要素は残っていますが、ようやく製品化が見えてきました」(小川さん)

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「技術開発本部 開発部はマーケットに近いところで開発を行っています。そのため開発部の人たちも客先に出向き、プレゼンテーションや直接ヒアリングすることもあります」(細野さん)
そのためデスクワークも結構ある、と小川さん。デスクでは分析結果をまとめたり、お客さまに提出する資料を作成したりしているそうです。
「ドライアイスに関する依頼試験は私たちの課で担当しています。当社のドライアイスをお客さまに使ってもらうために、そのお客さまの条件に合わせた効率的な使い方も提案するのです。そのための試験を行って資料を作るのも私たちの大事な仕事です」(小川さん)

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ハタラクヒト 社員の考えやアイデア、やりたいという気持ちを大事にしてくれる風土

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引き続き小川さんに「日本液炭 技術開発本部 開発部」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてお話をうかがいました。

 

小川さんは東京理科大学大学院 総合化学研究科 総合化学専攻修了後、2011年4月に日本液炭に入社しました。
「モノ作りができ、かつ学生時代の知識が生かせる化学メーカーで面白そうなところを探していたところ、偶然見つけたのが日本液炭でした。炭酸ガスのリーディングカンパニーであり、炭酸ガスやドライアイスの応用製品を作っている。学生時代、私が扱っていたのは液体と固体。気体は経験がなかったため、ぜひ、気体に触れ、新しい素材を作りたいと思ったのです」
入社後、現在の部署に配属され、主担当として細胞の定温輸送システム「セルコンテナーシステム」の開発に携わってきた小川さん。
「製品として目に見えるものができていくのは面白いですね。また私たちはお客さまに近いところで開発を行っています。依頼試験の業務では、営業と共にお客さま先に出向いてその結果をプレゼンテーションすることもあります。お客さまから『これがあれば助かるよ』『よく効果がわかるプレゼンだったよ』という声をかけていただくこともあります。そういう声を頂いたときはとてもうれしいですし、大きなやりがいも得られます」

 

とはいえ、お客さまへのプレゼンテーションは一筋縄では行かないそうです。
「私が担当しているドライアイスの依頼試験では、お客さまの最終的な輸送形態が明らかにならないことが多いからです。例えばドライアイスを商品の上下周囲を囲むように入れればより効果的になるけど、輸送形態によっては下や周囲に入れられないということもあります。お客さまの実態をいかにつかむか、そこが難しいところです。また私たちが開発している技術は、ドライアイスや蓄冷剤だけではなく、外装パッケージや容器などと合わせたトータルシステムとしてお客さまに提供します。したがって自分たちが開発しない蓄冷剤や外装パッケージ、容器については、それらを開発・製造している社内外の人たちとのコミュニケーションが必要となります。そのような立場や専門分野が異なる人たちに、自分の考えをいかに正確に伝えるかは、非常に難しいところ。誰もが理解できるようわかりやすい話し方を心がけています」

 

技術開発本部 開発部では炭酸ガスやドライアイスをベースとした新たな商品開発から、それらの素材を利用するための機器の開発、さらには炭酸ガスやドライアイスで培ったノウハウを生かした品温管理技術の開発など、幅広い仕事が行われています。そのため、化学はもちろん、機械や生物などさまざまな専門知識を生かすことができるのです。
「いろいろなことに興味を持って取り組める人がいいですね。学生時代に学んでおくと活用できるのは熱力学と語学。今後、当社においてもグローバル展開は必須になると思うからです」
2013年に創業90周年を迎えた日本液炭。そんな歴史のある会社にはどんな風土・文化が根付いているのでしょうか。
「非常に風通しの良い会社だと思います。例えば開発テーマも自分たちの考えが通りやすい仕組みが用意されているんです」
13年度までは年に1度、開発テーマを募集する期間を設けていたのですが、「思いついたときに応募したい」という社員の声もあり、14年4月からは開発テーマを随時、応募できるデータベースを構築したそうです。応募の権利があるのは全社員。部署に関係なく、誰でも応募できるというものです。
「だから開発部でも『こんなことをやりたい』と言えば、『やってみろ』と言われる文化が浸透しています。自分たちのやりたいという気持ちを大事にしてくれるシゴトバなので、楽しく働けます」

 

社員同士の結び付きや会社の団結力を図るイベント

入社後約2カ月間は、ガスセンターやドライアイスセンターなどでの現場実習を含む新入社員研修が行われます。写真はその締めくくりとなる発表会の様子。実習場所の改善点について提案するそう。新入社員ならではのフレッシュな感覚から、面白い提案が出るそうです。
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日本液炭では毎年、事業所単位で社員旅行を実施しています。写真は2012年の本社の社員旅行での一コマ。旅行先は山梨県の石和温泉。慰労はもちろん社員同士の結び付きを図るイベントとなっているそうです。
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日本液炭にまつわる3つの数字

1923年の創業以来、炭酸ガスのリーディングカンパニーとして炭酸ガスやドライアイスの安定供給、および技術開発に取り組んでいる日本液炭。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 1

2. 44

3. -78

 

前回(Vol.102 HILLTOP Corporation(ヒルトップ株式会社)) の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美 撮影/臼田尚史


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