商業印刷に欠かせない枚葉オフセット印刷機の開発
つくばプラントがあるのは茨城県南部に位置するつくば市。周囲には農林水産省の研究施設があるなど、まさに学術研究都市にふさわしい緑豊かな環境に立地しています。最寄り駅はつくばエクスプレスみどりの駅もしくはJR常磐線ひたち野うしく駅ですが、いずれの駅からも車で15分ほどかかるため、つくばプラントで働くほとんどの社員が車通勤だそうです。
つくばプラントが稼働したのは2005年12月。同施設には工場としての機能はもちろん、研究施設、さらには社員が心身ともに健康に働けるよう厚生施設なども用意することで、お客さまの要求される印刷機納期に柔軟に対応したり、より高性能な印刷機械の生産に応じたりできるようになっています。敷地面積18万5000平方メートル(東京ドーム約4個分)と非常に広大です。
つくばプラント 開発部のシゴトバを開発部 リーダーの中沢尚裕(なおひろ)さんが案内してくれました。写真は開発部の執務エリアです。フロアは横に長い造りとなっており、端から端までは200メートルほどあるそうです。
「私たち開発部が担当しているのは、枚葉(まいよう:断裁された紙)オフセット印刷機のハード側の設計開発。印刷機は大きく給紙、印刷、排紙という3つのユニットで構成されるため、 開発部の組織もそれに倣い、3つのグループで構成されています。私が所属しているグループは印刷ユニットの開発を担当しています」(中沢さん)
写真が小森コーポレーションの主力枚葉オフセット印刷機「リスロンG40」です。見ればわかるとおり、機械の高さは人の背ぐらいあり、全長は10メートルほど。中沢さんが立っている方(写真左)が排紙ユニット。写真中央から右にかけて4つ並んでいるモノが印刷ユニットで、写真では見えていませんがその先に給紙ユニットがあります。枚葉オフセット印刷機は多品種少部数で高品質な商業用印刷物やパッケージ印刷に用いられます。
「開発期間は機種によってさまざまです。例えば写真のリスロンG40をベースに開発したフラッグシップ(最上級)マシンであるリスロンGX40の場合、1台目がお客さまに搬入されたのが15年1月、設計に着手したのが13年の秋ごろなので、比較的開発期間は短めです。この機種では給紙や排紙機構を新しくしたことで、0.04ミリメートルの薄紙から0.8ミリメートルの厚紙まで、さまざまな厚みの紙に対応。当社のフラッグシップマシンにふさわしく、さまざまな自動化技術が搭載されています。例えばこれまで職人さんがやっていた版胴(シリンダー)への版のまき付けやブランケット(ローラー)の洗浄、紙の継ぎ足しなど、自動化される作業の範囲は年々広がっています。また時代で変わる印刷資材への対応も欠かせません。最近、増えているのがクリアファイルの印刷です。このような紙ではない特殊な印刷資材でもいかに早くきれいに印刷できるか、追究していかなければなりません。さらにグローバル対応。当社の製品は世界中で売り出されているのですが、国によってインクや紙、水が異なるんです。そのような国や地域による違いへの対応もしていかなければなりません。したがって検討する項目は多岐にわたります」(中沢さん)
一人当たりのデスクスペースもかなりの広さとなっていました。
「デスクでは担当機種の機構を3次元CADで設計したり、マニュアルなどのドキュメントを作成したりするほか、要素技術の開発に向けた検討などを行います。私が検討している要素技術のテーマはオフセット印刷技術の核とも言えるインクと給紙の仕組み。オフセット印刷の版には凸凹はありません。つまり平版で印刷するため、水(湿し水)と油(インク)が反発し合う原理を利用しています。この原理はオフセット印刷が誕生した時から同じですが、インクを改良することでより印刷品質を高めることができます」(中沢さん)
3次元CADで担当ユニットの設計をしているところです。
「今、担当しているのは前述のGX40と同じく、G40をベースに開発したG44という機種です。G40が印刷できる紙の最大幅は1030ミリメートルですが、G44は 1150ミリメートルの紙まで対応可能となっています。対応する紙サイズが変わると、ブランケットなどの大きさが変わるだけではなく、給排紙の機構も変わってきます。例えば給紙の機構は空気を入れて紙を送るという仕組みになっているのですが、紙のサイズが変わることで入れる空気の量も変わってきます。その量は紙の大きさに比例するわけでもありません。このようにベースとなるモデルがあっても、新規で開発していくところがたくさんあります」(中沢さん)
設計した図面の主要装置は3次元CADで構造解析した後、問題なければ製造へと回します。
「開発職と言っても、デスクに座ってガリガリと図面を描いているだけではありません。開発チームはもちろんですが、他部門との話し合いをすることもたくさんあります。購買課や組み立て部門、機械加工の部門など、さまざまな人たちとコミュニケーションして調整しながら、製品を作っていきます。部品調達の際は、購買部門のメンバーに同行して部品メーカーに行くこともあります」(中沢さん)
写真は開発チームで図面を見ながら、話し合いをしているところ。このような打ち合わせスペースが執務エリアのあちこちに用意されていました。
生産現場にも足を運びます。
「現場に来るのは組み立てで何か問題が発生したときか、試し刷りのときが多いですね。お客さまに納品する前には必ず、評価用の絵柄を使って試し刷りを行い、ちゃんと印刷できるかどうか、チェックをするんです。うまく印刷できていなければ、原因を探り調整を行います」(中沢さん)
写真は給水ユニットの部分をチェックしているところです。
ハタラクヒト 何か失敗があってもみんなで協力し合う人の良さ、温かさが魅力
引き続き中沢さんに「小森コーポレーション つくばプラント 開発部」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気について話を聞きました。
中沢さんは2003年に中央大学工学部精密機械工学科を卒業し、小森コーポレーションに入社しました。入社のきっかけは、紙幣印刷機を作っていることに関心を持ったこと。
「工場見学に行き、ここでどんな仕事ができるのかなど、いろいろ話を聞きました。その時の雰囲気がすごく良かったんです。また面接の印象も同じで、人柄の良さを感じました。グローバルで業界をけん引している技術力の高さ、印刷機というニッチな技術の面白さにもひかれ、入社を決めました」
入社後、現在の部署に配属され、枚葉オフセット印刷機の開発に携わってきた中沢さん。小森コーポレーションで開発に携わる面白さは、「お客さまの要望を基に開発仕様や設計仕様をまとめるというモノ作りの最上流から携われること」と言います。中沢さんたち開発者が描いた図面で原価も決まります。そしてその図面を基に、購買部が部品を手配し、組み立てられていきます。開発はお客さまのところに出荷されていくまで、さまざまな部署とかかわりながら担当していきます。
「マニュアル作成なども私たちの仕事。このように部門間の調整など、人間的などろくさい部分はありますが、そこもこの仕事の面白さ。さまざまな人たちと協力しながら作っていくのもやりがいです。本当にみんな協力的で温かいんですよ」
仕事をしていく中ではいろいろな失敗があります。以前、中沢さんが設計した部品を動かしたら、ほかの部品とぶつかってうまく動かなかったことがあったそう。
「その時も組み立ての部門や資材課、機械課などの人たちがみんな、『とにかく図面を描いてこい。なんとかするから』と言ってくれたんです。そしてなんとか大事にならずにリカバリーできました。本当に人柄のいい人が多いんです。こんな雰囲気の中で仕事ができるのはありがたいですね」
中沢さん同様、開発部のメンバーの多くは機械工学系出身だそう。
「駆動系の開発をするには材料力学など、機械系の知識は欠かせませんが、実は私の部下に美術系学部の出身者がいます。大学で学べることは基礎知識。会社に入ってから学ぶことの方がはるかにたくさんあります。したがって重要なのがやる気。自分がやりたいことをはっきり声に出すことができれば、それに応えてくれる環境です。そしてもう一つ重要になるのがコミュニケーション力。人と調整をすることが多いですからね。いろいろな人とコミュニケーションをして製品を作り上げ、それがグローバルで使われる。働きがいのあるシゴトバです」
朝・昼・夜と三食食べられる、大人気の食堂
社員食堂です。昼食はもちろん、朝食、夕食も食べられるそうです。
「一食あたりの社員が負担する金額は百数十円。種類も豊富なので、社員にも人気です」(総務部 人事勤労課人事係 河田裕介さん)
写真はある日の定食メニュー「五島列島沖産 アジフライ&エビカツ」定食です。食堂では時折、イベントが開催されていることもあり、写真のような特別メニューが用意されるそうです。
小森コーポレーションには陸上部があります。2015年は毎年1月1日に開催される全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)にも出場。写真を見ればわかるとおり、さまざまな陸上の大会で活躍。それらの成果がつくばプラントの玄関に飾られています。
小森コーポレーションにまつわる3つの数字
商業印刷に欠かせないオフセット印刷機の分野において、国内外をけん引している小森コーポレーション。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!
1. 1万8000枚/時間
2. 100パーセント
3. 80カ国
取材・文/中村仁美 撮影/平山諭